1915年(大4)大川屋書店刊。
明治31年から37年まで全国各地を荒し回った連続放火強盗犯、火の玉小僧こと西條浅次郎の生き様を描いた。明治大正の頃には個人情報は保護されておらず、事件の被害者名、所在地なども詳細に新聞で報じられていた。探偵実話を得意とした伊原青々園も、その詳細を小説の中に反映させており、それが迫真感のある記述に結びついていた。その最たる個所が明治35年11月に起きた東京区内各地の放火強盗事件で、全部で11件、ほぼ連日連夜の騒ぎであった。当時これほど重大な事件でも犯人がなかなか捕まらなかったというのも、旧態然の所管警察の縄張り意識や個人プレー中心の捜査体制だったからなのだろう。
物語は浅次郎の少年期から、ふとしたことで警察沙汰に関わり、良心の思う所とは違った方向に落ちて行かざるを得なかった(と恐らく本人の言い訳がましい自白から)経過をたどって語られる。あとは青々園のクライム・ストーリーになるのだが、彼の構成技法は、時系列を並び変えて、早々に犯人の捕縛と自白を明らかにしてから、「そもそも彼という人間は・・・」と回想していくスタイルになっている。関係人物が巧みに入り混じる筋作りもうまく出来ていた。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/907318
口絵は鈴木綾舟。
*参考記事:
『生首正太郎:探偵実話』 あをば(伊原青々園)