1953年(昭28)東方社刊。
鹿島孝二 (1905~1986) は戦中から戦後期にかけての明朗小説家である。この本は15の掌編集で、軽妙な語り口で平凡な市民生活の諸様相を描いている。「ロマンス」という言葉は今となっては古風な響きとなったが、終戦直後においては自由な思想や行動が解放された状況での恋愛の芽生えや感情の機微を感じさせる甘美さを含んでいた。人生を深刻に捉える思春期を過ぎると、人は社会生活にも順応し、適齢期を迎えた男女はいとも容易に生涯を決定する相手を求めて決めていくものだという現実をそのまま例示している。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
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装幀・カバー絵は田中比左良。
《焦土の跡も既に大半は建物で埋められ、新東京の逞しく、素晴らしいスピードで誕生しつつあることが、ハッキリ感じられる。都会に農村に、堕落した同胞の噂話ばかり高いのに、いや現に隆男らは敗戦国民らしからぬ劣情に身を置いているのに、東京は、いや日本は、ぐいぐいと立上りつつある。》(妻よ権利に眠れ)