1958年(昭33)1月~12月、雑誌「小説俱楽部」連載。
1958年(昭33)桃源社刊。
北条誠の得意とするメロドラマ作品の一つ。美しい人妻の「よろめき」と書けば鼻白む向きもあるだろう。老実業家社長の後妻となったヒロイン由岐子は数年前から夫が家を空けるようになり、妾宅まがいの料亭の離れで過ごしているのに悩んでいる。言わば「飼い殺し」の籠の鳥なのだが、自分の人生の空白を何かで埋める気力もない。時折ご機嫌伺いに社員が訪問するが、交代した若手の小森の心境は、当初の彼女への憐憫や同情の念から次第に愛慕へと変化していく。
社長は脳梗塞で倒れても妻の看病を拒否し、妾同伴で温泉地で保養する。いつしか由岐子は小森と密通してしまい、二人ともおのれの心情に苦しむ。一方で社長の死後を当て込んだ会社内の勢力争いが始まり、社長夫人の由岐子も小森もその道具や手先として翻弄される。真の愛の姿とは?現実世界の投影である小説でさえも唯一無二の正解を見出すのは難しい。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1358262
雑誌連載時の挿絵は佐藤泰治。
「勿論、愛しあってる二人にも、別々の心理はあるだろう。別々の利害はあるだろう。しかし、それをほじくるのが、果して誠実さだろうか、愛しあってる二人なら、片一方がよろこぶことは、当然、相手もよろこぶ筈だ、と、きめてかかるそういう単純な心理もあるな。俺はこのごろ、そういう単純さがうらやましくなったよ。」(カラクリ)
『この世の花』 北条誠
*参考記事(同名タイトル作品:中身は別物)
『風吹かば吹け』 大林清