明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『この世の花』 北條誠

 

1956年(昭31)東京文芸社刊、第1巻~第3巻。

1960年(昭35)東方社刊、上下2巻。

1963年(昭38)春陽堂文庫、正続2巻。

 

 戦後の1955年(昭30)にラジオ・ドラマとして放送され、大評判となった作品の原作である。単行本として合わせて900頁を超える大長篇だが、第2部の終わり辺りで切り上げとした。物語として人生の転変や浮沈を描いているが、段落ごとの作者の語りに結論が見えず、達成感が得られなかった。一口で言えば、代議士令嬢とその家に居候していた学生との愛と憎しみの変転劇である。それに地方の素封家の息子の横恋慕や、貧しいながらも清楚な娘の思慕、友情に篤い熱血漢の友人などが加わり、人間関係の描き方に深みを出している。禍福はあざなえる縄の如しと言う通り、栄華・幸福の絶頂から貧困と失意のどん底までの変遷は続くのだが、適当なところで終わらせてほしかった。また描かれる生活風景があまりに紋切り型なのも残念。☆☆

 

この作品はすぐさま映画化され、その主題歌が昭和史に残るほどのヒット曲となったのは有名。⇒ウィキペディア「この世の花」

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1355433

口絵・挿画なし。

 

「人間はね、その立場立場によって、物の見方も考え方も変わるもんなんだよ。ぼくたちがいいと思ってしたことでも、相手にはそうはとれず、悪意としか映らぬ場合もある。」(霜柱)

 

 

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