明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『横山花子』 渡辺黙禅

 

1913年(大2)樋口隆文館刊。前後2巻。前に読んでいた「千里眼」の後日譚である。幼児だったヒロインの花子が花も恥じらう19歳の娘に成長している。母親譲りの美貌が災いして強欲な実業家一味に何度もかどわかされそうになる。結局彼女は、その身上の転変やら、女性の自立やら、自由恋愛やらのすべてに翻弄された一生だったと言える。千里眼のような透視能力者は、ちょうど明治末期に人々を驚かせる事象が続出して、大きな騒ぎとなったことが契機となったようだ。(下記※) 後日譚は従前の話に依存する事柄がどうしても多くなるし、懐旧談はパート2、パート3と続くと味わいは薄れてしまう。☆☆

 

※本の万華鏡:第13回 千里眼事件とその時代

www.ndl.go.jp

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/910439

 

 

《仕合(しあわせ)だの不運だの、幸福だの薄命だのといふことは、人間が自分勝手に拵へた辞(ことば)であって、人間以上の摂理者の眼から見たならば、その仕合といふのも仕合にはあらず、不運といふのも不運ではなく、薄命は即ち幸福、幸福は即ち薄命、只時に於ける一片の波動が、高く見えたり低く見えたりするのではあるまいか、と疑ひながらも、其の不運を愁み、薄命を嘆く人の多きを目撃しては、そぞろに同情せずには居られなかった。出来得るならば其の場だけなりとも満足を感ずるやうに、慰安を與へたいものだと願った。》(後篇45)

 

 

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