1901年(明34)青木嵩山堂刊。現代でも空き家問題とか事故物件とか、不動産を巡る雑話は尽きないが、明治時代にもそうした話は少なくなかったようだ。親の遺産で何不自由なく暮らしている偏屈者の青年医者が語る一種の怪談仕立ての話。大阪府の高槻の町外れにある立派な構えの屋敷が空き家になって久しいが、奇怪な現象が現れるために借り手がつかないという。その噂を信じる周囲の制止を振り切って、医者はそこを借りて住むことにする。そして・・・。作者の稲岡奴之助の整然とした語り口と計算された筋立ては読む者を飽きさせない。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。浜田如洗の口絵。
*参考記事;神保町系オタオタ日記 (2010.07.18)
※奴之助:序文
《世に売文の徒ほどあはれ果敢なきはあらじ。得るところ少うして労する処多く、褒められること稀れに、謗(そし)られること常なり。況(ま)して其日其日の策にまかしてパンを手製したるものに於いてをや。さればこれを買って之を読み給ふ読者は罪障消滅し、手にだに触れ給はぬ人は未来永劫浮かぶ瀬なかるべし。》