明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『花ふたたび』 阿木翁助

花ふたたび:阿木翁助

1956年(昭31)桃源社刊。

 

 阿木翁助(1912~2002) は戦後昭和期のラジオ・テレビの脚本家として知られた。あとがきによると、この作品は連続ラジオ・ドラマとして全国21局で昭和30年6月から約1年半、433回にわたって放送された原作を小説の形にまとめたものだという。その後映画化もされたほどの評判だった。

 亡き夫の後を継いで岡谷市で製糸工場を営んできた泰子は倒産の憂き目に遭い、コネを頼って東京で生活の再建を目指す。女子大生だった娘のまゆみも働かざるを得なくなる。ちょうど終戦直後の復興期で、したたかな女実業家や場末の印刷屋で働く昔馴染み、車を乗り回す会社の御曹司、別荘族の令嬢、劇場の売店の売り子など、多種多様の人物が入り乱れる世相劇だが、何とか生活を立て直そうとする人生肯定的な意志が根底にあって明るい。シナリオの筋書を記述するためか、筋の展開が目まぐるしく、心理描写はあっさりと流している。結末がこれで一安心とはならない点でもリアルな現実を見せてくれた。☆☆

 

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