1927年(昭2)大阪毎日新聞社刊。
1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集第9巻所収。
1939年(昭14)新潮社刊。
『新聞小説史』で、吉川英治の出世作『鳴門秘帖』も新聞小説として大正末期から昭和にかけて連載されたものだったことを知って読んでみようと思った。当時から絶大な人気があったらしく、各社から単行本、全集本などが出されたが、それぞれに別々の画家による挿絵が入っていた。全3巻の大長編だが、最初の上巻にあたる「上方の巻」と「江戸の巻」(全体の3分の1)で読了とした。達意の文体による典型的な伝奇小説である。十年前に公儀隠密として阿波の国に入った甲賀世阿弥の行方を探るため、二人の男が大阪から渡船の手立てを模索するうちに女掏摸に懐中を取られ、阿波藩の武士たちに命を狙われる。さらに美男の虚無僧やお十夜頭巾の浪士、目明しなど多くの人物が入り乱れる物語に引きずり込まれる。しかし阿波藩のみが鎖国じみた政策で人の出入りを制限するとか、この探索者たちに限って必死で追い回したり、さらに江戸までも追いかけるなどの荒唐無稽さも長くなると鼻につかざるを得なくなる。やはり当時はそれに熱中できる時代の心情があったのだろうか?☆☆
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https://dl.ndl.go.jp/pid/11579320
https://dl.ndl.go.jp/pid/1908022/1/3