明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『生首於仙:探偵実話』 恋菊園主人(高橋翠葉)

1896年(明29)6月~12月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行。

 

(なまくびおせん)古書界では稀覯本とされる明治中期の娯楽文芸誌「人情世界」の創刊時からの連載小説の一つである。作者の恋菊園主人(れんぎくえん)はこの雑誌の主筆高橋翠葉(すいよう)の変名と推定される。しかし生没年は不詳。(残念ながら創刊号のみ欠落しているので、第2号から読み始めた)怪談まがいのタイトルだが、芸者揚がりで男爵の愛妾となった熊田お仙の腕に生首の刺青が施されていたことに由来する。お仙は情夫を男爵家の家扶として潜り込ませ、その手下たちを使って謀殺事件やら財産横領を画策する。探偵実話としているが、実話を脚色して書いているのは明白だ。犯人探しの推理劇ではなく、探偵(刑事)による悪人の追捕劇なのだが、主役の探偵が瀕死の状態まで陥らされる点も珍しい。面白く読むことができた。☆☆☆ 

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1601378

口絵および挿絵は楊斎延弌または延一(ようさい・のぶかず) 

 

(追記)

 明治の娯楽文芸誌「人情世界」は創刊後半年で発行部数が20万部を超えた。一般的な単行本がかなり高価なので貸本屋の形態が庶民の読書欲を満たしていた。この雑誌は新聞の連載小説と単行本の中間を行く新機軸で、彩色錦絵を表紙とし、連載小説を2~3本掲載し、木版挿画を施し、題材も探偵実話や講談筆記で読者の興味を引き、さらには読者からの俳句や狂歌の投稿を掲載したことが成功した。以下に版元の広告宣伝文を引用する。

 

《本誌は平民的にして、人をして読まざる者なきに至らしめんことを期するを以て、文体簡易通俗を旨とし、紙数は毎號三十二頁を下らず、絵入傍訓(えいり・ふりがな)にして美麗なる錦絵表紙を附し、壱冊金壱銭五厘の最低廉価、即ち壱枚の新聞と同じき値を以て発売す。是れ本誌の最大特色とする所なり。》(館告)

 

 

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