1898年(明31)2月~4月 雑誌「人情世界」連載
1898年(明31)11月、博盛堂刊。
錦城斎は、江戸の講談師の一龍斎系列の名跡である。ここで口演しているのは二代目錦城斎一山(いっさん)(1858-1900)で、42歳で早逝する直前になる。剣術の名人塚原卜伝ではなく、その息子・源内と孫・左門清則の二代の事績を物語る。父の名代で登城し、御前試合で勝った左門は、恨みを回避するため父の勧めで武者修行の旅に出る。岡山、兵庫、香川が中心だが、行く先々で腕比べで負かした者たちを次々と輩下に加えていく。しかし留守の父母が姦策によって自刃に追い込まれた事を知り、仇討を果たす。
明治20年代から盛んになった言文一致の動きはまたたく間に出版界を支配していく。格調高い文語体にこだわったのはむしろ純文学の先生方であり、こうした口演速記本や探偵小説の流行こそが、文章改革の先鞭ではなかったのかと思われてならない。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用
https://dl.ndl.go.jp/pid/1601419
https://dl.ndl.go.jp/pid/890573
雑誌連載の口絵および挿絵は楊斎延弌または延一(ようさい・のぶかず)
単行本の口絵・挿絵は作者不詳。