明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『?(ぎもん)の女:秘密小説』 玉川真砂子

 

1919年(大8年)共成会出版部刊。大正期の女性ミステリー作家と思われるが、この作品1冊のみで、生没年も不明。タイトルに疑問符?を使っている点も気になって読んでみた。ある殺人事件をきっかけに重要人物が身を隠すという設定はミステリー小説の手法のパターンの一つでもある。主人公の青年は新聞社勤務だが、その事件の直前まで恋人同士だった女性が容疑者の汚名を帯びたまま消え去ってしまったのだ。数年後ふとした事で再会するが、逃亡の謎を頑なに語ろうとしない。彼は何とか聞き出そうとするが、関係する人たちがそれぞれ口を閉ざしてしまう。作者の語り口は丁寧で、人物の心理変化も細やかに描いているが、謎を引っ張り過ぎる感がある。最後に一気にそれぞれの謎を解読するのは、相互関係を理解し直すヒマがなく、慌ただしい感じがした。この女流作家は期待されていたとは思うが、急逝したか、あるいは別の筆名で活躍していたかもしれない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/906899

口絵は江水と記名があるが詳細は不明。



《暑い暑いといふ内に何時(いつ)しか秋の季に入って、朝夕の風も肌に快よく思はれるものも暫時の間で、其風の一雨毎に冷たさを加へて、やがては猫さへも日南(ひなた)の縁側を好むやうになった。》(第五:雨の夜)



『貴方は彼女(あのひと)を愛して居られるのだから、其の無罪潔白を信じて居られるのは如何にも御無理はありません。愛の前には過ちも法律も頓着されないのはやむを得ぬことですが、併し貴方がそれ程彼女(あのひと)を愛するといふのは、全く運命とでもいふのでせうかねえ。』(第十七:扇ガ谷)

 



 

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