1897年(明30)8月~1898年(明31)1月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行
作者の荻廼家(おぎのや)主人についてはこの作品以外には生没年を含め、全く不明。この版元所属の記者作家の筆名の一つと考えられる。伯爵家の財産の横領を企む分家の弟と結託した家令が令嬢を拉致して殺害したことから物語が始まる。最初に捜査に関わった探偵が途中で惨殺され、仲間の探偵が後を継ぐが、許婚の父親を容疑者として逮捕し、自身も大怪我をする。結局三人目の探偵が犯人一味を追い込む。主要人物がリレー形式で交代して捜査をつなぐのも珍しい。登場人物が多く、筋も入り組んで、相関図をメモしないとわかりにくかったが、読み応えがあって面白かった。単行本でなく、雑誌連載を追って読むことになった。☆☆
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口絵および挿絵は楊斎延弌または延一(ようさい・のぶかず)
《人間と言ふものは、死ぬる時に死惜みを成さると、死するに勝る恥を残し、末代までの不名誉を残すもので、殊に貴僧の如きは、独りご自分の恥のみでなく、慈悲忍辱を旨とする沙門全体の不名誉でございます。》(女の片腕)