1955年(昭30)東方社刊。
1951年 6月~1952年 10月、雑誌「婦人生活」連載。(雑誌連載は前半欠号)
戦後の文学界を代表する一人、田村泰次郎 (1911-1983) は代表作『肉体の門』などで性情や肉欲の表現を自由に描いて注目されたが、この婦人雑誌への連載小説は、それとはガラリと空気を変えて、戦後世代の女性の恋愛観の新たな息吹を描く純愛作品となった。金権に幅を効かせる政治家の令嬢、戦後没落した旧華族の令嬢、そしてその華族の隠し子である妹の三人とその三人のいずれからも心を寄せられる新聞記者の青年との恋愛模様。そこには戦前までの家名優先の観念、政略結婚の企み、女性が独りで生きて行くことの難しさなど、答えを見出せない現実がある。よく練られたプロット構成と達意の文体には勢いがあった。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用
https://dl.ndl.go.jp/pid/1646237/1/3
https://dl.ndl.go.jp/pid/2324877/1/46
雑誌連載の挿絵は岩田専太郎。
「世間なんて、漠然としたものを持ってきて、そんなことをきめるのが、土台、まちがいよ。いまの若いジェネレーションはね、お父さんたちの時代の考え方と、あたしたちの時代の考え方が違っているだけよ。時代が変れば、考え方が変るのは、あたり前でしょ? そんな簡単なことがどうしてわからないのかしら」(春寒く)
「最後に、あなたにいいたい言葉は、愛情のない男女のむすびつきほど、不幸なことはないということです。どんな苦しみも、束縛も、お互いに愛情さえあれば、それを突き抜けられることでしょう。その意味で、あなたと私のむすびつきは、根本的にまちがいでした。」(愛の湖心)