1917年(大6)大川屋書店刊、みやこ文庫第1編「因果華族」
1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第2遍「馬丁丹次」
1918年(大7)大川屋書店刊、みやこ文庫第3編「雪見野お辰」
探偵活劇と悲劇小説をミックスしたような物語構成の大長編、全3巻。当初は横浜新報に連載。登場人物も頭の整理が追いつかないほど多数。安岡夢郷は新聞の記者作家だが、講談師のような構成と語り口で書くのが特徴で、その口数の多さが持ち味でもある。
財産乗っ取りの悪事を企む仲間たちの結束が固く、善良な華族の方々がなす術もなく、いとも簡単に悲惨のドン底に追いやられる。彼らを助けようと義侠に燃える書生、馬丁、侍女、そして探偵までもが窮乏とケガで生死の境をさまよう始末となる。悲劇の令嬢は泣いてばかりいる。また華族一家の醜態を表沙汰にしようとせずに、体面を保とうとする態度も状況を悪化させる。結局、悪人側の内部の綻びから自壊するのだが、義侠に走る書生や芸妓も意気の空回りで読者の期待には応えてくれなかったのが心残りだった。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/912260
https://dl.ndl.go.jp/pid/920694
https://dl.ndl.go.jp/pid/911716
表紙絵・口絵は鈴木綾舟と思われる。
「其の探偵の君が証拠がないからと云って手が出せんとは何事だ、無い証拠で目付け出すのが探偵の職務だらう」
「御尤(もっと)もさ、しかし探偵の本分は徒に人を疑はないとしてある、世間の人間は探偵を軽いものに思って、何でも矢鱈に人を疑ふが如く考へて居る者が多いが、探偵といふ役目は決してそんなものぢゃないよ」(因果、五十四:管轄違ひ)
「随分世間にゃ面(つら)の不味い人がある、鳥渡(ちょっと)見ると鬼見たいな顔して面見て御免を蒙(こうむ)り度いやうな、厭な先生も澤山あるが、しかし女は真実で持つんだよ、不味い面の人の内儀さんに美い女のあるのはね、顔の綺麗な浮気者よりも真実のある人を持ち度いといふ皆な心を買って夫婦になるんだよ」(雪見野、六:女の餘りもの)
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『新女夫塚』 安岡夢郷 (2022.01.24)