1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。講談社ロマンブックス、上下2巻。
1953年(昭28)9月~1956年(昭31)5月 雑誌「婦人生活」連載。
『女の一生』というタイトルには、「この人生って何だったんでしょうね?」と自問するヒロインの当惑した姿が見えるような気がする。モーパッサンの名作をはじめ、日本の小説家にも多くの同タイトルの作品が書かれており、それぞれの人生を生き抜いた女性の感慨が表れている。田村版のこの作品も足掛け4年の雑誌連載で、昭和の戦前から、満州での戦中を経て、戦後の東京に至るまで、ヒロインが人生の盛期を5人の男性との関わり合いに翻弄された生きざまを描く。戦争の惨禍に生活基盤を脅かされながらも生きようとする人間の必死さと尊厳とを感じさせられた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1645211
https://dl.ndl.go.jp/pid/2324913/1/141
表紙絵は林武、雑誌連載時の挿絵は岩田専太郎。
《インテリにはない、動物的なといっていい、一種奇妙な肌あいがある。知識とか、理性とかというものとは、まるで関係のない、人間が結局は動物であることにすこしの不審も覚えてないような神経である。そういう世界を秩序づけているのが、義理と人情とであった。その二つのものだけが、自分たちが、動物であることを、すこしも不審に思わない神経の人間にとって、人間らしく生きて行くための道徳である。》(若葉のかげり)
「なにしろ、戦争の時代だから、誰だって。自分の思うようには、生きにくいですよ。みんな、大なり、小なり、自分の心にそわない生き方をさせられてきているんです。自分だけが、不幸だと思うのは、まちがいですよ、――もっとも、――これは、あなたの過去が、不幸だったと、勝手に想像しての上での話ですが、――」(秘めたる愛)