明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『夕立勘五郎』 神田伯山

夕立勘五郎:神田伯山

1929年(昭4)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第8巻所収。

1954年(昭29)大日本雄弁会講談社刊、講談全集第18巻所収。これは戦後再刊されたものだが、演者名は無記名となっている。ほとんどが戦前刊の三代目と同じ口調なのだが、所々に戦後の風俗や流行語が挿入されて、可笑しく思えた。誰かが手を加えたのだろう。

 

夕立勘五郎:神田伯山2

大正から昭和初期にかけての神田伯山の口演筆記本は三代目による。三代目神田伯山(1872~1932)は11歳で二代目に弟子入り後、めきめきと腕を上げ、1904年に32歳で師匠の存命中に三代目襲名を受けた。

 

江戸の大名や旗本の屋敷への奉公人の口入れ稼業は元締と呼ばれ、仲間部屋での賭博なども取り仕切っていたのが親方だった。伊賀屋勘五郎もその一人で、町中で暴れた殿様の馬「夕立」を殴り殺した件で、殿様をむしろ諫めた事で名を上げた。しかも彼の場合にはあまり「飲む、打つ、買う」の要素が少なく、折り目正しい人物だったようだ。物語としては次郎長と同様の侠客物だが、各々の行動原理が義理と人情に裏打ちされて「恰好をつける」ことがこの世界の特異さであると思った。絶妙な話術を聞く代わりに読むことも人々の楽しみだったことがわかる。☆☆☆

 

夕立勘五郎:神田伯山3

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1211889

https://dl.ndl.go.jp/pid/1662448

挿絵は井川洗厓。



*関連記事:『清水次郎長』神田伯山 (2022.11.08)

ensourdine.hatenablog.jp



 

 

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