1953年(昭25)桃源社刊。全11篇所収。
1961年(昭36)12月、雑誌「小説倶楽部」錦秋大増刊号に「軽気球の殺人」のみ再掲載。
村上元三は戦後の時代小説の代表的な作家の一人だった。剣豪もの、武将もの、侠客もの、伝奇ものなど広範囲な分野で多くの作品を残したが、捕物帳でも加田(かた)三七というそば屋の主人が活躍する短篇を約70作書いていたのはあまり知られていない。
背景は明治初期、東京の湯島天神下でそば屋翁庵を営む加田三七は元々は八丁堀同心だった。配下の岡っ引だった幸助もそば職人として働くが、何か事件が起きたとなると二人で首を突っ込むのが心の張りでもあった。士族の商売ながらうまく続くが、時を追うごとに妻の急死、息子の結婚、孫娘の誕生など彼の後半生の変転を、安定した語り口で描く点では味わいが深かった。また本職の警察とは一線を画して、一私人としての事件の解決法にも人情がこもっていた。当時「そばや」の人気からか、維新前にそばやの前身の八丁堀同心として活躍する「十手篇」のシリーズも平行して書かれている。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1643319
https://dl.ndl.go.jp/pid/1790508/1/105
雑誌再録の「軽気球の殺人」の挿絵は滝川共。
*参考サイト:加田三七捕物帳について
https://www7b.biglobe.ne.jp/~tdk_tdk/kada37.html