明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『松五郎捕物帳』 栗島狭衣

松五郎捕物帳

1935年(昭10)松光書院刊。作者の栗島狭衣(くりしま・さごろも)(1876~1945) は劇作家の岡本綺堂とほぼ同年代だったが、20代は朝日新聞の記者であるとともに文士劇の主要メンバーとして活動した。30代からは一座を組んで俳優として活動し、映画にも出演した。また劇作家および映画の脚本家として知られた。作家としては晩年の10数年のみ活動したに過ぎない。

 昭和初期は「半七捕物帳」に加えて野村胡堂の「銭形平次捕物控」が人気を博していた頃で、この本のまえがきにも「捕物帳といったやうな興味をそゝるものが、一番出版界の弗箱になるといふ話だ。」と語り、版元の社長から執筆の勧誘を受け、「意気と意気とが、ピッタリ合致して、幸に持合せてゐた捕物話を、大衆読物に書き立てる勇気を鼓舞させた。」と述べている。神田豊島町に住む岡っ引の松五郎を主人公に、仙太、平太という2人の子分を従えた捕物話は全部で3話。「幽霊櫓太鼓」「変幻若衆髷」「化け頭巾」の中篇のみである。情景描写はト書き並みに簡潔で、対話は軽妙、劇作家ならではの構成もしっかりしていた。しいて言えば「女っ気」が乏しく、乾いた味わいに思えた。☆☆☆

 

松五郎捕物帳2

執筆の手伝いに村田吉邦(よしくに)という若手作家が加わっていたとも書いている。こちらの人物は戦中期において「兵士慰問」のためという大義名分で多くの捕物帳を出していたのだが、その詳細については生没年を含めほとんどわかっていない。(古書情報のみ)

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用

https://dl.ndl.go.jp/pid/1259651

表紙絵および挿絵の作者は不明。

 

松五郎捕物帳3

《何を思ったか松五郎は、急(せ)くでもなし、急かぬでもなしブラリブラリと、足を運んだ。初秋の涼々しい空気が、さわやかに朝の巷に流れてゐた。クッキリと紺碧に晴れ渡ってゐる大空には今日一日の好天気を約束する様に、鳶が静かに輪を描いてゐた。》(変幻若衆髷:十六)

 

 

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