1931年(昭6)新潮社、長編三人全集 第18巻 所収。
時代物から現代小説まで広範囲なジャンルで健筆をふるった三上於菟吉が書いた初の探偵小説というふれ込み。大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災のときに事件が起きる。震災当日の生々しい惨状や街の様子を描いた小説は珍しかった。(今年がちょうど震災後百年でもあったので・・・)
事務所のビルの倒壊で圧死した実業家大川信兵衛の秘書山口詮一はその混乱を利用して、その莫大な財産の横領を企てる。その場に生き残ったタイピストのなみ子はそれを知って身を隠す。山口は金庫から取り出した遺言書を書き換えたのだ。被害者には勘当の身で米国を放浪していた息子がいたが、その後改心して立派な研究者となり、震災で父親が死んだために帰国する。物語は悪玉山口がいかに正当な相続者の息子を抹殺するかにかかる。まるで米国映画の探偵活劇のような軽妙さとスピードで展開するので、作家三上の描写力の重量感はあまり感じられず、異質な感覚だった。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
https://dl.ndl.go.jp/pid/1179292/1/129
*参考記事:
(1)銀髪伯爵バードス島綺譚:『血闘』三上於菟吉 (2023.01.22)
ginpatsuhakusyaku.blogspot.com
(2)ヒラヤマ探偵文庫 24 @Booth 2023年1月発売