明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

探偵活劇

『封人窟』 渡辺 黙禅

封人窟:渡辺黙禅1 1915年(大4)樋口隆文館刊、前後終編全3巻。 明治大正期の長篇小説の大家の一人、渡辺黙禅の一作。新聞小説を各紙に何本か掛け持ちで連載していたらしく、同じ年に単行本として何点もの長篇(2分冊、3分冊)を出していた。作風は多数の…

『血闘』 三上於菟吉

血闘:三上於菟吉 1931年(昭6)新潮社、長編三人全集 第18巻 所収。 時代物から現代小説まで広範囲なジャンルで健筆をふるった三上於菟吉が書いた初の探偵小説というふれ込み。大正12年(1923)9月1日に発生した関東大震災のときに事件が起きる。震災当日の…

『水晶の座』 牧逸馬

水晶の座:牧逸馬 1927年(昭2)7月~12月 雑誌「女性」連載。 1933年(昭8)非凡閣、新選大衆小説全集 第3巻 牧逸馬集 所収。 牧逸馬(1900~1935)は林不忘や谷譲次の筆名でもそのジャンル別に分けて作品を書いた。タイトルの「水晶の座」とは、豪州の砂…

『林中之罪』 菊亭笑庸・訳

林中之罪:菊亭笑庸 1894年(明27)今古堂、探偵文庫 第九篇~第十篇 前後2巻。 菊亭笑庸(きくてい・しょうよう、生没年とも不明)は黒岩涙香に追随するように海外の探偵小説の訳述に活躍した。他の多くの翻案作家たちと同様に彼らの存在はそれぞれの版元…

『人間豹』 江戸川乱歩

人間豹:江戸川乱歩 1939年(昭14)新潮社刊、江戸川乱歩選集 第5巻。 乱歩特有の怪人対探偵・明智小五郎の探偵活劇の一つ。少し前に読んだ「蜘蛛男」と骨組みが似通っている。前半は主人公の青年が気に入っていた女性たちを立て続けに人間豹に奪われるスト…

『悪魔博士』 西條八十

1948年(昭23)12月号~1949年(昭24)8月号、雑誌「東光少年」連載。 1953年(昭28)偕成社刊。 東光少年 終戦直後の昭和20年代には軍国主義の抑圧から解放されて、数多くの雑誌が出版された。少年少女向けの雑誌も同様で、この「東光少年」も国会図書館デ…

『頭(ヘッド):探偵苦闘』 吐峰山人

1926年(大15)村田松栄館刊。 作者の吐峰山人(とほう・さんじん)については、生没年とも不明。大正期から昭和初期にかけて歴史物、講談物、探偵物、冒険物の分野で著作を残している。明快な文章で読みやすい。この作品のタイトルは英語カナ表記で「ヘッド…

『神秘の扉』 高木彬光

1955年(昭30)東京文芸社刊、タイトルは『復讐鬼』 1960年(昭35)浪速書房刊、『神秘の扉』 神奈川県の海沿いの田舎町に建つ広荘な洋風建築の松楓閣に暮らす富豪の朝比奈家に次々に起きる失踪事件。古文書の整理に雇われた秘書、群司の眼を通して丁寧に語…

『血染の片腕:探偵講談』 山崎琴書

1901年(明34)博多成象堂刊。明治30年前後の第一次探偵小説ブームの頃の講談速記本。これも実録をベースに講談にしたものと思われる。山崎琴書(きんしょ, 1847-1925)は明治大正期の講談師だが、積極的に探偵講談に取り組み、速記本の出版も多く、ミステリ…

『死骸館』 小原夢外(柳巷)

1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史…

『奇想天外』 篠原嶺葉

1908年(明41)大学館刊。正続2巻。明治後期の新聞小説は、読者の興味を引こうとして題名を奇異なものにすることが流行した。 嵐の夜に渋谷の森の中で一人の代議士がピストルで殺害された。その死体をヒロインが発見するのだが、関係者たちほぼ全員それぞれ…

『奇美人』 小栗風葉

1901年(明34)青木嵩山堂刊。小栗風葉はかなりの多作家であった。晩年は代作者や翻案も多かったようだが、物語の構成に工夫をこらした、読んで親しみやすい作風だと思う。この作品は彼の20代半ばのもので、当時言文一致体はまだ完全には定着しておらず、…

『野原の怪邸:探奇小説』 鹿島桜巷

1905年(明38)大学館刊。鹿島桜巷(おうこう)の最初期の著作と思われる。地の文は文語体で格調が高い。怪奇小説仕立ての探偵小説。松戸市郊外の河原塚に建つ怪しい邸宅をめぐる探奇譚である。この家に住む叔母夫婦を訪ねて来た書生の主人公は、その家が少…

『幽霊塔:奇中奇談』 黒岩涙香

1901年(明34)扶桑堂刊。前後続篇の全3巻、萬朝報の新聞連載で124回。 当初はベンヂソン夫人(Mrs.Bendison) 原作、野田良吉訳、黒岩涙香校閲という表記であった。しかしまず英国作家でベンヂソンという人物は探し出せず、原作も不明だった。また野田良吉は…

『神出鬼没』 川上眉山

1902年(明35)青木嵩山堂刊。前後2巻。川上眉山は尾崎紅葉の硯友社へ参加した作家であり、泉鏡花と共に観念小説を書き、自然主義を目指して挫折し39歳で自殺したという。しかしながらこの作品は純文学からは遠くかけ離れた探偵活劇の娯楽作であった。「弱…

『変装の怪人:怪奇小説』 鹿島桜巷

1905年(明38)大学館刊。序文でドイツの小説からの翻案であると明言している。言文一致体への移行が盛んに行われていた時期ながら、旧来の文語体表記で書かれている。「~たり」「~けり」「~なり」など格調は高いけれども、鹿島桜巷(おうこう)の語り口…

『地獄谷:探偵奇譚』 俊碩剣士(北島俊碩)

1916年(大5)春江堂刊。大正期になると欧米から輸入された映画の中でも連続活劇物が人気を博した。各地で上映されると同時に新聞や雑誌、単行本でノベライズされた作品が大量に出回った。またそれに触発されるように日本を舞台とした探偵活劇、これは推理や…