明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『運命の車』 山田風太郎

運命の車:山田風太郎

1959年(昭34)桃源社刊。

 

明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日露両国から勲章を受け、ロシアからは莫大な終身年金をおくられることとなり、「帯勲車夫」と賞賛された。

この小説はこの歴史上実在した二人の人物のその後の人生を描いたものである。なまじっか働かなくても一生安楽に暮らして行ける境遇となった男たちの、一人は生来のどうしようもない性行を改めようとしても変えられず、放蕩三昧で破滅する人生を送り、他方は(これは創作の要素が高いが)犯人の実娘との愛憎劇を救世軍の慈善活動を通して乗り越えていく。日清・日露の戦争を含め、明治の世相の変遷も大雑把ながら把握できた。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1669483



《魔性をおびた底知れぬ女の蠱惑(こわく)もあったろう。おさえてもおさえきれぬ治三郎の天性の好色もあったろう。(…)断続的ながら十五年になんなんとする彼女との交情にみれんのたちきれぬ彼のばかばかしいほどの人のよさもあったろう……。しかし、いっそう大きな理由は、彼の自己破滅の快感ともいうべき感情だった。つまり彼はヤケクソになっていたのだ。》(われは官軍わが敵は)



*参考Wikipedia

ja.wikipedia.org

 

 

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