明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

近世実話

『運命の車』 山田風太郎

運命の車:山田風太郎 1959年(昭34)桃源社刊。 明治時代の歴史的事件の中に、訪日中のロシア皇太子が警察官に刀で切りつけられるという大津事件があった。その犯人を真っ先に取り押さえたのは一行を乗せていた人力車の車夫の二人だった。事件後、彼らは日…

『お嬢おきぬ首塚』 菊水舎 薫

1897年(明30)9月~1898年(明31)2月 雑誌「人情世界」連載、日本館本部発行 講談速記本の形になっているが、演者の菊水舎薫(きくすいしゃ・かおる)は元々主筆の高橋翠葉(恋菊園)の門人だったのが、大阪に行って講談師の資格を取り、東京に戻ってきた…

『徳川家金蔵破の件』 菅谷与吉・編

1893年(明26)日吉堂刊。この作品の作者名は明記されていない。奥付に編者として記されたのは版元の社主だった。明治20年代は社会体制の安定、言文一致体の浸透、印刷技術の向上などによって多様な出版文化が花開いた時期だった。特に探偵小説はまだ犯罪…

『三浦老人昔話』 岡本綺堂

1925年(大14)春陽堂刊、綺堂読物集1、全12篇。 1939年(昭14)春陽堂刊、夕涼み江戸噺。 岡本綺堂には本業の戯曲作品と一連の半七捕物帳の外に奇談の聞き書きのような作品集がある。若い頃に半七を何冊か読みふけったあとは、転勤のためその奇談集のほう…

『憐なる母と娘』 橋本埋木庵

1916年(大5)樋口隆文館刊。前後2巻。版元の広告文によると、日清戦争で戦死した軍人の遺された妻子の悲劇的実話に基づいているという。その美貌が仇となって、横恋慕された妻は義弟夫婦の姦策により金満家の男に凌辱される。明治の頃の小説には性愛に関す…

『美少年録:立志鳳鑑』 菊亭静

1887年(明20)イーグル書房刊。ここでの「美少年」とは「好青年」のような概念であり、いわゆる「美男子」ではない。秩父の山村で育った2人の少年が東京に送り出されて高等教育を受けるが、一方は堅実に勉学に打ち込み、もう一方は怠惰で無軌道な生活を送…

『吹雪巴』 遅塚麗水

1901年(明34)金槇堂刊。作者の遅塚麗水(ちづか・れいすい)は作家、新聞記者で紀行文の大家として知られた。表題の「吹雪巴」(ふぶきどもえ)は《雪は卍巴(まんじともえ)に降りしきり》など、互いに入り乱れて雪が降る様子を形容する明治期の言い方で…