明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『呪いの塔』 横溝正史

呪ひの塔:横溝正史

1932年(昭7)新潮社、新作探偵小説全集第10巻所収。

 

 軽井沢に設定された空間迷路の観光施設「バベルの塔」が舞台。雑誌社の社員由比耕作は人気ミステリー作家の大江黒潮から別荘に招かれる。そこに出入りする人々にはそれぞれ入り組んだ愛憎模様がある。余興に探偵劇を企画するが、被害者役の作家黒潮が塔の天辺で本当に殺されてしまう。軽井沢の濃霧が捜査を阻むうちに第2の犯行が・・・

 書き下ろしの長篇だったらしく、最初の予告では「呪いの家」というタイトルになっていた。探偵役の白井三郎は中盤まで存在感が稀薄だが、終盤には奇妙な生活ぶりや目覚ましい行動力の発揮などが描かれ、興味が深まる。全体的にもゆったりとした細やかな描写と揺れ動く各人の心理描出などで重厚感が出ていた。☆☆☆

 

呪いの塔:横溝正史2

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1259847

函絵は山六郎、挿絵は竹中英太郎



呪ひの塔:横溝正史3

《この男は実際不思議な才能を持ってゐるのだった。いかなる重要な質問を発する場合でも、時々冗談を交へることを決して忘れなかった。さうして、軽い冗談で相手の気持ちをはぐらかしておいては、突然鋭い質問の矢を放つのである。老巧な刑事や検事にかういふのがよくあるが、彼もまた長年の社会部記者生活のうちに、いつかその骨(こつ)を心得たものとみえるのだ。》(南條記者)

 

呪ひの塔:横溝正史4

《自分の知ってゐる人物――少なくとも表面打ちとけた交際をした事のある人物が、恐ろしい人殺しで、しかもまんまと自分はそいつに欺かれてゐたのだといふ感じは、誰にとっても決して嬉しいことではなかったが、耕作にとっては、それが大きな精神的な打撃となるのだった。》(フィルムの語るもの)

 

 

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