明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『君は花の如く』 藤沢桓夫

君は花の如く:藤沢桓夫

1955年(昭30)7月~1956年(昭31)東京タイムス紙連載。

1956年(昭31)大日本雄弁会講談社刊。

1962年(昭37)東方社刊。

 

大阪の化粧品会社で働くヒロインの朝代には暗い過去があった。東京で男に翻弄される生活を断ち切るために単身逃れて来たのだった。ふとした事件で知り合いになった篤夫という青年に心を惹かれながらも、その彼に思いを寄せる和歌子の存在を知り、素直に恋情を育くむのをためらってしまう。さらにまた過去の男からもストーカーのように彼女の住まいに押しかけられて、パニックに陥るなど、ガラス細工のように壊れやすい二人の愛情をいかにして成就させるかを、作者は筆を巧みにふるっていく。大阪の市街を舞台にしているのも新鮮だった。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1355690

新聞連載時の挿絵は下高原健二。

 

君は花の如く:藤沢桓夫2

《自分では生れ変ったつもりでいても、人間は果して中途から別の人間になることが出来るのだろうか。人間の過去は果して消え去り得るものなのであろうか。人間は死ぬまで自分の呪われた過去を背負って歩いて行かなければならないのではないだろうか。》(消えぬ過去)



《本当の強い愛は、第三者への同情とか義理立てとか、そう言ったものに左右される余地のない、もっともっと切羽つまったものであるべきかも知れない。同情も義理も何もかも踏みにじって、直進するのが正しいのかも知れない。それはわかっている。わかっていて、篤夫への愛情の火に全身を燃やしながら、敢えて忘我の境地にまで彼を求めて行けない自分が、朝代には、かなしくもあり、呪わしくもあった。》(愛する苦しみ)

 

 

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