明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『火葬国風景』 海野十三

火葬国風景:海野十三

1935年(昭10)春秋社刊。

海野十三(1897~1949)は昭和初期から終戦直後にかけて活躍したが、当初は探偵小説家としての作品が多かった。この一冊は単行本としての四番目の作品集で、表題作「火葬国風景」の他に8篇収められている。「火葬国」は空想力を掻き立てられる中篇で、火葬場の窯の先に隠された世界の物語という着想は強烈な印象を与えてくれる。彼の言葉に「同時に奇想天外なる型の探偵小説も書いてみたいといふ熱情に燃えてゐる」とあるように、奇想天外の要素が彼の持ち味であり、魅力でもある。他の作品中には帆村荘六(ほむら・しょうろく)という私立探偵をしばしば登場させており、これはホームズの名前のもじりとすぐわかるが、海野流探偵の軽妙さも味がある。四国の僻地の村の事件なども剽軽で楽しめた。「牛罐工場事件」(荒川放水路)、「疑問の金塊」(横浜・伊勢佐木町)☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1689765

函絵は作者不明。

火葬国風景:海野十三

《つまり此処に標準型といふのは、第一になんとなく猟奇的な風景があって、第二にその中に何気ない軽い犯罪があって、第三にその犯罪がちょっぴり神秘な道筋をとほり、第四に軈(やが)て通俗科学的な知識の応用で解決する。そして第五にほんの僅かなセンチメンタリズムの余韻が残る――といふのが私の云ふ私の標準型なのである。》(作者の言葉)

 

《作家としての私は、現在では悩みがあまりに多く、熱情があまりに迸(ほとばし)りすぎて、どうも作品に落着きがないやうに思ふ。もし私にもう三四十年の寿命が与へられるならば、六十歳ぐらゐからきっと自分でも気に入るものが書けるやうな気がする。》(作者の言葉)



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