明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『頭の悪い男』 山下利三郎

日本探偵小説全集:改造社版、第15篇(山下・川田集)

1930年(昭5)改造社、日本探偵小説全集 第15篇(山下利三郎・川田功集)14篇所収

1928年(昭3)平凡社、現代大衆文学全集 第35巻 新進作家集 4篇所収

 

山下利三郎(1892~1952)は大正後期の雑誌「新青年」での探偵小説隆盛期に江戸川乱歩と前後してデビューした。当時は「円本」と呼ばれる「全集本」が大流行していたため、その全集の一巻として作品集が刊行されたが、単行本での出版はなかった。短篇14作のうち、表題作の他にも数篇、冴えない小学校教師吉塚亮吉の日常生活の中で起きる出来事の数々に文芸的な味わいを感じた。本格推理とか謎解きとかの面から言えば物足りなさが指摘されるのだが、語りの中に「頭の悪さ」を疑いながらも思いをめぐらす渋さに筆致の確かさを感じる。探偵風味が加わるだけで文芸作品はこうも楽しめるものだと思えた。☆☆☆☆

 

虎狼の街:山下利三郎

国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。

https://dl.ndl.go.jp/pid/1226545/1/7

https://dl.ndl.go.jp/pid/1171640/1/82

平凡社版の挿絵は加東三郎(さむろう)。

 

第一義:山下利三郎

「強いて低級なものでなくても、立派な探偵小説があるぢゃないか。単調な生活に飽々して、飛びこむところが犯罪の世界で、平凡な芸術に刺激を得られない人間の趣味のおちつくところは探偵小説なのだ。」(或る哲学者の死)



「貴方は何か云ふと、真実(ほんとう)々々と私に要求せられるが、この人生に真実が一体いくつあるのですか・・・人間の生れることゝ、死ぬことゝ、そして男と女とがあるといふ、四つ以外にどんなに真実が有るんです。嘘ばかりぢゃないですか。」(第一義)

 

裏口から:山下利三郎

《大体人間の行為の善悪を、軽率に区別することができるだらうか・・・どこから何處までが善の行為であるといふやうに。あるひは善だと信じてした行為でも、見る角度や解釈の相違で、悪があると云はれてしまふ事が、この人間の世の中にないであらうか。》(裏口から)

 

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ