1946年(昭21)岩谷書店、岩谷文庫10。
武田武彦という探偵小説作家の名前はあまり聞かなかったが、調べてみると終戦直後に創刊された雑誌「宝石」の編集にたずさわった人で、その合間に作品を書いていたようだ。デジタル版で岩谷文庫の一冊を手にしたが、あとから考えれば、その時期に刊行された粗悪な紙の薄っぺらな冊子の短篇だった。編集者らしいこなれた筆致で、戦後風景の中で起きる事件を書いているが、モーリス・ルヴェルの短篇のネタを(どれとは言わないが)応用したように思う。恐らく「宝石」に掲載したものを文庫化したようだ。その時期の推理小説業界の状況も垣間見えて面白かった。☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用。
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口絵は山名文夫。
《他の文学雑誌と違って、わが探偵雑誌は毎号の原稿に頭をなやましてゐる。小酒井不木、夢野久作、浜尾四郎、甲賀三郎、小栗虫太郎、蘭郁二郎氏などを次々にあの世へ送ってしまひ、これに代る新人の登場もなく、まったく困ってゐるのだ。》(殺人を売る女)