明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『死骸館』 小原夢外(柳巷)

 

1908年(明41)大学館刊。小原夢外という作家名についてはほとんど情報が見つからなかったが、下掲のブログ記事により小原柳巷 (1887-1940) と同一人物であったことがわかった。明治末期の20代に夢外、大正時代の30代に柳巷、そして昭和初期には流泉小史と称して「幕末剣豪秘話」で評判を得た。こうした「転名」の作家は少なくなかったように思う。版権契約のせいだったのかも知れない。

「死骸館」とは米欧で身元不明の死体を陳列する施設を言う。(下記参照)英国小説の翻訳と思われるが、原著名は不詳。珍しくも豪州メルボルンが舞台となっているが、人名だけは日本名に置き換わっている。河岸に流れ着いた櫃に金目の物を期待して開けたところ無惨に殺された女性の死体が見つかる。その捜査に懸賞金がかけられたので、発見者の男は職を辞して素人探偵を始める。黒岩涙香張りの探偵活劇がくり広げられる。筋の展開には英国の三文小説的な安易さがあるが、夢外は時折日本の習慣との比較論を織り交ぜながら筆を進めている点、翻案小説ではなく、翻訳として外国の事物を紹介しようと心がけた姿勢が伺えた。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵作者は不詳。

https://dl.ndl.go.jp/pid/886574/1/26

 

 

《死因の疑はしい、何者だか解らない死体は酒精(アルコール)に漬けて、陳列して、これを公衆の観覧に供する。これは、一方には犯人捜査に付きて便があるのと、今一つは死体の何者なるやが早く分るのと、最後には、殺人行為の惨なる事を社会各人に知らして、犯罪を減少せしめやうとするのと、如上三個の理由の下に、出来たもので》(八、雲を抓む様)



*参考ブログ:大人の自由研究帖

伊庭八郎と新選組②【流泉小史】(2021.03.12)

http://j-kencho.blog.jp/archives/8245664.html



*関連記事:『髑髏団』(幽霊屋敷) 小原柳巷

ensourdine.hatenablog.jp

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