1812年(明45)樋口隆文館刊。正編、続編、続々編の全三巻。明治後期の新聞記者が謎のハイカラ女性から話を聞くという体裁の枠物語で始まる。話は一気に、外国船に蹂躙される幕末の対馬の漁村に飛ぶ。作者渡辺黙禅(もくぜん)は当時人気作家の一人とされ、作品数も多い。歴史的な事件を織り込む巧みな語り口で、まるで大河ドラマを見るに近い快感を覚える。ここでも悪役の男女のしたたかさ、悪知恵、行動力が目立つ。可憐なヒロインは艱難辛苦の連続でほとんど泣いてばかりいる。人がいいのであっけなく騙され続ける。三巻目は一件落着してからの後日談になるが、台湾、ロシア、中国と舞台が広がり、海路しか交通手段はなかったが、当時のほうが往来が自由で活発だったような気がする。☆☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。赤井恒茂の口絵。
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