明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『怪の怪』 渡辺黙禅

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1910年(明45)樋口隆文館刊。前後2巻。渡辺黙禅を続けて読むことになった。華族の黒石子爵の屋敷での強盗殺人事件が発端となる。駆けつけた2人の警察官も殉職するという凶悪事件ながら警察の捜査は難航する。跡取息子の游蕩に加え、家宝の工芸品が秘かに売却される奇怪な事件も続き、名家は存続の危機にさらされる。家令や使用人たちの思惑も入り乱れ、特に善悪の二面性を持つ女中のお雪の言葉巧みな唆しには生命力さえ感じた。当時は刑事でなく、探索係とか探偵とか呼んだが、事件の解決には力を発揮することなく終わるので、何となく風呂敷を広げ過ぎた感じもする。☆☆☆

国会図書館デジタル・コレクション所載。長谷川小信(このぶ)の口絵。

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※「鐘も朧の睡そうな夕靄に包まれた花の下陰、月にかすむオパール色の空の匂ひを、散る夜桜の雪に落して、一帯の山を油絵のやうに暈かした上野公園の大佛下を・・・」



※版元樋口隆文館の奥付広告

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