明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『三浦老人昔話』 岡本綺堂

 

1925年(大14)春陽堂刊、綺堂読物集1、全12篇。

1939年(昭14)春陽堂刊、夕涼み江戸噺。

岡本綺堂には本業の戯曲作品と一連の半七捕物帳の外に奇談の聞き書きのような作品集がある。若い頃に半七を何冊か読みふけったあとは、転勤のためその奇談集のほうまでは手が伸ばせなかった。この「三浦老人」は半七の番外編のようで、今回ふとしたきっかけで再度読み始め、たちまちその語り口に魅了されてしまった。12篇の小話があるが、個々の話をつなぐ合い間に枠物語のように筆者と三浦老人との交友の経緯が語られるのが味わいを深めている。個々の小話にも作為を感じさせない自然な語り口を読み進めることができた。☆☆☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は「夕涼み」の方に掲載。装丁と同じ小村雪岱の絵と思われる。

dl.ndl.go.jp

 

 

※明治期には大久保はつつじの名所として広く知られていたようだ。

《大久保の停車場のあたりは早いつゝじ見物の人たちで賑ってゐた。青葉の蔭にあかい提灯や花のれんをかけた休み茶屋が軒をならべて、紅い襷の女中達がしきりに客を呼んでいるのも、その頃の東京郊外の景物の一つであった。(---)そのなかでは大久保が比較的に交通の便利がいゝ方であるので、下町からわざわざ上ってくる見物もなかなか多かった。躑躅(つつじ)には色々の人形細工がこしらへてあるので、秋の団子坂の菊人形と相対して、夏の大久保は女子供をひき寄せる力があった。》(『置いてけ堀』)

 

 

 

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