明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『家庭新講談』 細川風谷

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1912年(明45)実業之日本社刊、全9篇。書名から想像すると「明治時代の家庭向けの新しい講談集」だろうと思ったが、題材はいずれも江戸時代の出来事で、武士の妻女に関する逸話集のようなものだった。中でも印象に残ったのは、最初の「誉の夫婦」伊達藩のぐうたら侍を更生させた賢婦の話、堀部安兵衛の妻「妙海尼」の話、頭にバカがつくほどの「正直久助」の話など。こうした立派な行いの人々の話を読み続けると説教じみてくるのは確かだが、それぞれの生きざまには色々と考えさせられる。作者風谷(ふうこく)は若くして尾崎紅葉硯友社に関わっていたが、一時期郵船の事務長を歴任し、退職後講談師となった。江戸時代に庶民の娯楽を支えた話芸としての講談や落語も、明治時代には速記術の発展と印刷技術の向上により、いわゆる講談本、落語本として全国に大きく普及した。人々に読まれた書籍の半数近くはこうした講談本であろうと思われる。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は無し。掲載画像は江戸時代の絵草紙と思われる「妙海尼」

dl.ndl.go.jp

 

※講談の名調子の一例:

「さてもはかなき人の身の、遇ふが別れの兄弟が、縁も碓氷(うすい)の峠ほど、つくった罪は重くとも、消えて行く身は軽井沢、善と悪との追分在を後にして…」(正直久助、P276)



*参考サイト:町人思案橋・クイズ集 (2016.01.09)

江戸時代には有名だった女詐欺師、妙海尼(みょうかいに)。誰の配偶者と称していたの?

http://blog.q-q.jp/201601/article_5.html



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