(ちぞめのハンカチ)1909年(明42)樋口隆文館刊。花鳥叢書第1巻。深夜の巡視中にある洋館での殺人事件に駆けつけた大石巡査は、数日後に刑事となる辞令を受けて自ら捜査に取り組むことになった。人力車夫の話から、当夜現場から車に乗った娘が血染めのハンカチを落としたことを知り、その娘を拘留するが、彼女は現場に行った理由を語ろうとしない。事件の関係者たちがまるではめ込み細工のように絡み合い、犯人を追い詰めることになるが、そこまで関係づけなくともと感じる。しかし主役の新米刑事の性格や気質には、いささか個性も見えて面白い。当時第一級の保養地熱海がここでも出てくる。文章は地の文が漢文調で硬いが、会話部分が落語調で混ぜ返しの要素も多く、読み進むのにそれほどの困難はない。「血染の〇〇」という書名タイトルも当時の探偵物の流行だったかもしれない。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。
※「十七八で色の白い瓜実顔で、鼻筋の通った、口元の締った、目尻の上った黒目勝ちの地蔵眉毛(じぞうまゆげ)に富士額(ふじびたい)。文金の高島田に結ったイーッ女でしたよ。」
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