明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『刺ある花』 鹿島桜巷

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1915年(大4)樋口隆文館刊。前後2巻。ヒロインは美人泥棒の容子で、横浜の医師の家から劇薬を盗もうとしていた。この女の正体は中国人の革命の闘士、鄭紫蘭だった。時代背景は辛亥革命直後の混乱期で、中国では軍閥に支持された袁世凱が実権を掌握していた。彼女はそれに対抗して革命の理念を追求する党派に属していた。この時代では日本が活動家たちの避難先としても重宝されていた。しかし金の力で寝返りや裏切りが党派の仲間中でも次々に起こる。革命運動の実態を詳しく描くのは難しい。中国の方々の都市を移動したり、活動資金のために強盗はおろか殺人さえ厭わない姿勢には狂気さえ感じた。最後の宮中への突入も自殺行為そのものにしか思えないが、現代のテロリストたちもこうした狂信的な行動に駆り立てられているのを思うとどうしても割り切れない気持になる。☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は山本英春。

dl.ndl.go.jp

 



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