1913年(大2)春江堂刊。文字通り「竜頭蛇尾」の作品だった。作者大原天眠の名前はこれ一作にしか残っていない。冒頭の東京の奥多摩の山中を迷った若い狩猟家と鄙には稀な謎の美女との出会いなどは伝奇的な香気があった。女は潜伏中の強盗団の一味だった。明治末期における青梅、入間周辺の風物や鉄道や道路事情も興味深かった。しかしながら物語の中心人物が次々に転移していく点と、その原因も結果も説明不足で、なぜそうなったのかが無くてはお手上げになる。ただし挫折せずに読み通せただけ、どこかに味わいがあったのだと思う。やはり土地勘に共感できたせいかもしれない。☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は川北霞峰。