1919年(大8)春江堂刊。前後2篇。作者の大橋青波(せいは)は名古屋の新聞社の記者として働く傍ら、作家として小説を書く健筆家として知られていたが、生没年や経歴はほとんど不明。その後上京して作家として独立したらしい。古巣の名古屋の新聞界とは繋がりが深く、大正期に連載小説を何作か各紙に書いた。この『赤潮』もその一つで、構想の巧みさや筋の展開の面白さで好評を博したと緒文に紹介されている。
逗子で結核療養中の兄の許を、それまで疎遠にしていた弟が急に見舞に訪れ、同行した医者の処方薬でその晩のうちに急死させてしまう。財産横領の計画は成功し、遺された姪である娘を引き取って下女として働かせる。その悲惨な境遇の描写は少女小説的でもある。悪巧み同士間の対立や甘い汁を嗅ぎつけた別の悪党との抗争の中には一時的に善の味方と見える動きなどもあって、ストーリーの吸引力を味わうことができた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。
https://dl.ndl.go.jp/pid/908975
口絵は未詳。