明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『怨と情:悲劇小説』 山田松琴

 

(うらみとなさけ)1920年(大9)樋口隆文館刊。前後2巻。「覆水盆に返らず」の例えの通り、一度破綻させた恋愛を「結局元の鞘に」と願っても容易に叶うものではないというドロドロの愛憎劇。

作者の山田松琴(しょうきん)は明治13年、名古屋生まれの女流作家・歌人であった。明治から大正期にかけて盛んだった女性の文芸投稿誌『女子文壇』にも看板作として小品が度々掲載されている。

富豪のドラ息子の甘い口説に乗せられその子を宿したヒロインは、家を追われ、子を奪われて、苦界を放浪する。対比的にその富豪の家のステータスのために迎えた華族令嬢は、実家の経済的な困窮を救うという名目で輿入れした別のヒロインとして冷えきった実のない毎日を送る。細やかな心情をつづる筆致には確かなものがあるが、どのような手立てをもってでも救いが見えない点で、心が重くなる。☆☆☆(数カ所で製版ミスと思われる筋の飛躍が認められる)

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は森田久。

dl.ndl.go.jp

 

《男と生れた身の怨めしさには、お互いに千万無量の泪を噛み締めて、痛いものも痛いと言はず、悲しい事も悲しいとは泣かずに悲痛な笑顔を作って行かねばならないのが男の負担だ。》(P67 出発2)

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ