1909年(明42)明治堂刊。明治後期には「金色夜叉」「不如帰」などの爆発的な流行以来、いわゆる便乗本も数多く出版された。その多くは「続xx」「後のXX」という後日談を思わせるもの、あるいは「新xx」の設定が類似したところから別パターンの物語に発展させるなど、多様な作家たちの貴重な舞台でもあった。
作者名の「なにがし」については、本名、生没年などほとんど知られていない。「なにがし=何某」そのものが匿名性の呼称であるので、現在の覆面作家一人と同等に見なすしかなかった。「新乳姉妹」(しんちきょうだい)は菊池幽芳の当時の人気作「乳姉妹」の設定を模した作品で、軽くスイスイ読める文体である。訳あって一緒に養育された姉妹の一方は富裕階級の落胤であるという設定は常套不変である。ここでの叙述の平易さは、安易さと近いようで違う。育った環境との身分の差はあっても生活苦に追われるほどの深刻さでないことが読者庶民の安心感を与えていた。☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は大堀孤山。
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『乳姉妹』 菊池幽芳 (2022.01.29)
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