明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『史蹟甚九郎稲荷』 中村兵衛

 

1914年(大3)樋口隆文館刊。前後終全3篇。表題は神社の縁起由来記のように思われるが、中身は江戸時代初期の史伝上の人物、佐久間甚九郎の半生記である。作者中村兵衛は神戸又新日報の文芸部記者である傍ら、「書き講談」の口調で読みやすい多くの小説を書いた。甚九郎は宇喜多家の家臣の子孫として主家の再興を画策したとあるが、史実とはやや異なるように思われる。美男で多才、かつ豪勇であるため、赤穂、鳥取、岡山と各地を流浪する先々で、娘たちに思慕される設定は、作者の他の作品でも見うけられる。稲荷神の化身である白狐が天変地異を起こして甚九郎を助ける場面が出てくるが、彼が特に信心深いためとは書いていない。しかし現代までも地元岡山に祀られている稲荷神社に名を留めている人物の物語としては興味深かった。☆☆☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は長谷川小信。

https://dl.ndl.go.jp/pid/918014



※稲荷神社(甚九郎稲荷:岡山市

https://www.okayama-jinjacho.or.jp/search/16438/



※※参考ブログ:月のひつじ 中村兵衛 ~明治の作家~(2019.03.10)

https://tvc-15.hatenablog.com/entry/2019/03/10/005459

 

 

 

 

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