明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『血染の片腕:探偵講談』 山崎琴書

1901年(明34)博多成象堂刊。明治30年前後の第一次探偵小説ブームの頃の講談速記本。これも実録をベースに講談にしたものと思われる。山崎琴書(きんしょ, 1847-1925)は明治大正期の講談師だが、積極的に探偵講談に取り組み、速記本の出版も多く、ミステリー作家出現までの先駆けの一人だった。

日本橋署の探偵(刑事)がある夜九段坂の付近で人の叫び声を聞いたので、駆けつけると人の姿はなく、切断された片腕だけが見つかった。被害者は瀕死の重傷のはずだが、どこにも見当たらなかった。被害者探しの捜査過程は警察の精力的な行動として描かれている。ただし話芸の高座の特徴で、ちょっと脱線やまぜ返しなどで聴衆の注意力を引き回す技芸も入ってくる。警察の探偵3人の代わる代わるの活躍で予想を覆すほどの人数の犯人一味を次々に捕らえるのは壮観だった。名前のついた女性がちょっとしか登場しないのも珍しい。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。

https://dl.ndl.go.jp/pid/890532

口絵は鈴木錦泉。

 

 

*関連記事:『怪美人 伊藤夏子:探偵奇談』 山崎琴書 (2022.02.14)

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