明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『疑問の黒枠』 小酒井不木

 

1927年(昭2)波屋書房刊。世界探偵文芸叢書第7篇。38歳で早逝した小酒井不木の代表作の一つ。彼自身医学者であり、その知識を反映させた探偵小説を精力的に書き始めて4年足らずで世を去った。「黒枠」とは新聞の死亡広告記事のことであり、悪戯で掲載された記事を逆手に取って、今で言う生前葬のような模擬葬式を実施する中で被害者が本当に死んでしまう。誰が、なぜ、どのように?を究明する本格探偵小説が始まる。情景描写は丁寧で、謎を追究するうちに次々に予想外の事件が起きるので探偵役も読者も振り回される。日本の本格推理小説の黎明期における秀作に数えてもいいと思う。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵挿絵は無し。

dl.ndl.go.jp

 

《夢はある程度まで、夢見る人の心を象徴する。醒めて居る人の言動には虚偽が多いが、夢の世界では、その人の真の心が活躍しようとする。だから夢によってある程度まで人の心を窺ふことが出来るのである。然し、夢は之を客観的に分析の対象とすることが出来ない。夢を見た本人が語る以外に、その夢の内容を知ることが出来ないからである。》(第16章教室の怪)

 

 

 

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