明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『新奇談クラブ』 野村胡堂

 

1932年(昭7)春陽堂刊。日本小説文庫216~218 所収(3分冊)。銭形平次の連作のみ有名な野村胡堂だが、その少し前に一連の「奇談クラブ」という中短編集を書いていた。あまり知られていないが、戦後「奇談クラブ」5篇と「新奇談クラブ」13篇をまとめて「奇談クラブ」として刊行されたことがある。奇談クラブとは「デカメロン」のように一堂に会したメンバーが交互に幻想怪異譚を語り合うオムニバス形式の短編集となっている。もともと「奇談クラブ」のほうが中篇集、「新奇談クラブ」のほうが短編集となっていたが、国会図書館デジタル・コレクションで読めたのは「新」の9篇と中篇の3作の計12点だった。いずれも荒唐無稽とも言える怪異譚だが、物語の時代背景は様々で、「そんな馬鹿な」と思いつつも作者の筆致には確かな力量が感じられ、読み応えがあった。野村胡堂は野村あらえびすという別名で音楽評論家でもあったせいか、西欧の音楽・美術に関する造詣の深さも感じることができた。☆☆☆☆



 

国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵画家は未詳。

dl.ndl.go.jp

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『南京蕎麦ばかり喰ふからだよ。いくら安くたって、朝から晩まで八銭の油切った奴ばかり飼糧(かいば)にしちゃ、気分も悪くなるだらうぢゃないか。』(馬太郎の幸運)

 

 

『おっ母ァは何んにも知るまいが、ありゃベームクラリネットと言って、中古で買っても百円以上するんだ。ジンタで使ふザラのとは品が違ふ。昔なら知らず、今の俺にあれ位の品がどうして買へるんだ。』(馬太郎の幸運)

 

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