明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『ほととぎす』 規子

 

1912年(明45)湯浅春江堂刊。もともと「不如帰」(ほととぎす)は徳富蘆花の小説で、1900年出版されると当時の大ベストセラーとなった。相思相愛の幸せな結婚をしながらも、頑固な姑や片恋慕の男の諌言、結核への羅患などで離婚を余儀なくされ、悲惨な中で死を迎えるというパターンの物語は、多くの模倣本に加え、モデル暴露本やら、後日談、果てはその馴れ初めまで遡る前日談と、多種多様の類書が続々と出版された。これもその一つだが、俳句雑誌の「ホトトギス」の指導者正岡子規を思わせる作者名規子(きし?)はここ以外には見当たらない。同時期に同じ版元から家庭小説を書いていた大平規(ただし)ではないかと思う。芸者の身上ながらも貧乏絵描きの恋人の生活を支え続ける侠情が目新しいが、パターンの枠組みに当てはめるということはどうしても結末が先に見えてしまうのは仕方がない。☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵画家は未詳。

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