1950年(昭25)矢貴書店刊。新大衆小説全集第10巻所収。銭形平次物は長中短合わせて383篇にのぼるそうだが、まともに読んだのは今回が初めてになる。胡堂の文体は「でした、ました」という丁寧な語尾に特徴がある。傲慢な読者でも語り手がへりくだった姿勢に思えると素直な心情になる。
この作品は数少ない長編の一つで、江戸中の十八歳の娘たちの中から籤引きで当った者に千両を与えるという催事に起こった殺人事件を皮切りに、続出する殺傷事件や誘拐事件の謎に銭形平次と右腕の八五郎が追っていく。関係する人物の表情や感情の変化を丁寧に描写している点に味わいがあった。謎の組み立ても巧みで、犯人像がなかなか見えてこない上手さも光った。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。個人送信サービス利用
https://dl.ndl.go.jp/pid/1708093/1/6
挿絵は富賀正俊。