1926年(大15)春陽堂刊、綺堂読物集2、全12篇。
1939年(昭14)春陽堂刊、夕涼み江戸噺。
三月三日の雪降る夕べに青蛙堂(せいあどう)の主人から呼び出しを受けたので行ってみると十数人の客が集まった。食事の後に主人から今日の会合の主旨は怪奇な話を互いに語り合う会だという。「三浦老人」の場合と異なるのは老若男女が入れ替わって一話ずつ話すのだが、その語り手の身元は言及されない。怪異談なのだが伝聞語りで、謎が解明される訳でもなく、聞かされる側=読者にとってあまり恐怖心を起こさせないのがかえって読んで楽しむという満足感を与えるように思う。何気ない季節感のある描写には読んで感心させられる。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は「夕涼み」版から小村雪岱と思われる。
《それから三日目の夕方に、わたくしはお富を連れて新宿の大通りまで買物に出ました。ゆふ方と云ってもまだ明るい時分で、暑い日の暮れるのを鳴き惜しむやうな蝉の声がそこらで忙しさうに聞えてゐました。》(黄色い紙2)