明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『銀行頭取謀殺事件』 松林小円女 

 

1901年(明34)至誠堂刊。松林派の門人の一人と思われる松林小円女(しょうりん・こえんじょ)は東京出身の女流講談師だが、詳細は不明。この演目は明治の東京で実際に起きた人を陥れるための殺人事件を題材としたと思われる。小円女にはあと1作の講演本「まぼろし小僧」が出ている。ソツのない、てきぱきとした口調で読みやすい。特に興味深いのは、主人公と許婚の約束を交わした娘が親の脅迫によってやむなく別の男と婚礼を挙げるという当日に、式の席上で男の旧悪を暴露し、式をぶち壊しにするという一段で、女性講談師ならではの意気込みが感じられる。

表題の演目は同じ版元から2カ月前に下記の通り別の題名で2分冊で出版されている。

『星亨誉之弁護:兇行事件の顛末』(ほしとおる・ほまれのべんご)前後2巻。

星亨は伊藤博文内閣の閣僚でもあった実在の明治の政治家、弁護士であり、冤罪で投獄された主人公の弁護を担当し、無罪の判決を勝ち取るのだが、作品上は脇役でしかない。そのせいか合冊の上、表題を変更して改めて売り出されたのだと思われる。附録にて星亨が刺殺される別の事件の顛末を詳述している。☆☆☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。口絵は小山光方。

dl.ndl.go.jp

《色の白さは雪か氷か白鷺か、普賢菩薩の再来か、観世音薩陀が衆生済度の為に仮に、姿を此の世に現はし給ひしか、天人が天下ったか、唐土楊貴妃の再来ではないか、小野小町か照手の姫か、中将姫も恥入る計り鼻筋通りて、両眼清らかに致して、白目白玉に漆の点を打ったる計り、口元締りて歯は瓢(ひさご)の種を並べたる如く、餘り肥っても居りません、又痩せても居りません、背高からず低からず、所謂沈魚落雁、閉月羞花、一度此の女を見る時は魂ひ天外に飛上り、再び此の女を見る時は、身體すくんで歩行(ある)く事能はず、イヤドーモ危険(けんのん)千萬の女が有ったもんです。》(第廿三席)

 

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