明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『殺害事件』 丸亭素人・訳

 

1990年(明23)今古堂刊。原作はエミール・ガボリオ(Emile Gaboriau, 1832-1873) の『オルシヴァルの犯罪』(Le Crime d’Orcival, 1866) というフランスの新聞連載小説である。原作では名探偵のルコックが活躍するが、多湖廉平(たこれんぺい)に置き換えられるように、登場人物はすべて日本人名になっている。パリ近郊の大柴(おおしば)村にある貴族の邸宅で陰惨な殺人事件が起きる。現地の判事や医師だけでは無理なのでパリから探偵に来てもらう。物語の中盤はガラリと趣向が変わる。財政が破綻した貴族が自殺に追い込まれた所を田舎貴族の好意によって救われ、財産目当ての結婚を画策する。果ては田舎貴族の細君から横恋慕されて、恩人を裏切り、恋に狂った細君が夫を毒殺するに至る。男女の恋情の変容から殺人事件に至るまでの経緯にはやや無理な飛躍があるが、フランス19世紀中頃の世相も感じられて一応楽しめた。☆☆☆

 

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。木版挿絵画家は不明。

dl.ndl.go.jp

同じ丸亭素人訳の『黒闇鬼』でも挿絵は随所に入っているが、「明治の探偵小説」の著者伊藤秀雄によれば、「絵入自由新聞」などに木版画挿絵を作っていた新井芳宗あたりではないか、と語っている。




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