1893年(明26)今古堂刊。前後2巻。原作は明記されていないが、フランスの新聞小説(フィユトン)作家、おそらくボアゴベかガボリオと思われる。パリを舞台とした探偵・追跡劇だが、丸亭素人(まるてい・そじん)も涙香と同様に、人物や地名を和風に置き換えて翻訳している。細部に大ナタをふるった涙香よりも原作の記述を重視したと思われ、明瞭さよりも回りくどさが感じられた。でもそれは原作者に由来するのだと思う。鉄道自殺に見せかけた殺人事件に端を発して、二つの誘拐監禁事件が錯綜し、長編として読み応えがあった。表題の「三人探偵」の意味が、どの三人のことを指すのかはっきりしない点が残念であり、主役らしくも描かれていない。ただし悪玉の探偵業者の変装術へのこだわりは、ジゴマ、ファントマ、ルパンへと続くフランス的伝統の顕れと思えた。原作がいまだに特定されていないが、個人的にはどこかで突き止めたいと思っている。☆☆☆☆
国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は安達吟光。