明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『博士邸の怪事件』 浜尾四郎

 

1931年(昭6)新潮社刊。長篇文庫第20編。浜尾四郎は現職の検事として勤務した後、辞職して弁護士事務所を開設した。作家としては5年余りのみで、39歳で脳溢血で急死した。作風は非常に簡潔かつ明晰で、理知的な筆致で説得性がある。自身の経歴を反映させたような元検事の私立探偵・藤枝真太郎を数作で活躍させている。ラジオでの生講演に出演した博士の自宅で、その放送時間中に妻が殺害されるという事件で、本格的な謎解きだが、司法解剖によって推定された死亡時刻とのズレも困惑材料となった。博士邸という演劇の舞台を思わせるような限られた空間で犯行と捜査が進められていく。☆☆☆

 

国会図書館デジタル・コレクション所載。挿絵は無し。

dl.ndl.go.jp

 

《その様子は、美しいとか悩ましいとかいふよりはむしろ凛然としてゐる。と形容した方が当ってゐるやうである。数年間の検事生活によって、藤枝は、かうした凛然とした女性に対する時は、如何なる用意周到さを以てなされるべきであるかを知ってゐた。かういふ態度で、検事なり警察官の前に坐ってゐる女性は、はじめからしまひまで、一つの間違ひもなく事実を物語るか、でなければそれと正反対に、徹頭徹尾、嘘をつき通すものである。》(一四)

 

 

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