明治大正埋蔵本読渉記

明治大正期の埋もれた様々な作品を主に国会図書館デジタル・コレクションで読み漁っています。

『ある文藝編集者の一生』 大村彦次郎

 2002年9月、筑摩書房刊。昭和初期から戦中を経て戦後に至るまで文芸雑誌の編集者だった楢崎勤の生涯を語るつもりで付けたタイトルだと思われるが、内容は雑誌出版業の側面から見た昭和前半の文壇史そのままだった。昭和初期にはプロレタリア文学思潮の台頭が見られたが、それに対抗するように新感覚派川端康成横光利一らのモダニズム表現が活発となり、若手作家たちによる十三人倶楽部とか新興芸術派倶楽部の集まりが出来た。それらは統一した主義主張を持たず、個性と多様性にあふれ、離合集散を繰り返して変容して行った。それに関わった新潮社や改造社文藝春秋社などの活動はさながら群像劇を見るようだった。

 また昭和10年以降の戦時体制の強化がいかに文化というものを生き絶え絶えにまで追い込んだか、我々が忘れ去ろうとしている全体主義下にあった日本を思い起こさせてくれた。

 文豪、巨匠、ベテラン、新進作家たちや編集者、経営者たちの生きざま、死にざまが生き生きと描かれ、感動を覚えた。☆☆☆

 

 

にほんブログ村 本ブログ 古本・古書へ